秋の味覚のひとつに鮭がありますが、切り身だけでなく卵であるイクラも人気があります。
イクラは昔は高価な食べ物のイメージがありましたが、近年は回転寿司などで気軽に食べられる食材へと変わってきました。
しかし、一昔前までは、高価なイクラを安価で食べられるようにと、人工イクラと呼ばれるものが世に出て、回転寿司で出るイクラは人工イクラではないかという考えが広がってきました。
今は、あまり見かけないですが一昔前は、イクラ風味の卵とかいわゆるカニカマみたいな感じでスーパーに出回っていたそうです。
真実がどうかという事をここで語るつもりはありませんが、逆に言えば、化学の力で人工イクラを作る事が可能と言う事になります。
私も大学の化学実験で人工イクラを製造した経験があります。
この記事では、人工イクラの作り方と天然イクラとの見分け方など、時期は過ぎますが自由研究の題材や文化祭の出し物、学校のオープンキャンパスなどで数多く、食品化学実験として紹介されている題材についてご紹介していきたいと思います。
イクラの構造と人工イクラに必要な原料
イクラの構造
イクラは、目玉、内容物、膜の三重構造で成り立っています。
目玉はサラダ油(食用油)、内容物はゾル、膜はゲルで人工イクラを作りたいと思います。
今回人工イクラを作成するにあたり、一番難しいのは目玉の部分になりますので、人工イクラの作り方では簡易版(目玉無し)と食品化学実験版の2つをご紹介します。
人工イクラを作る原料
・アルギン酸ナトリウム
・塩化カルシウム
・食紅
・食用油(サラダ油)
人工イクラの作り方
一般的な人工イクラについて説明していきます。
簡易版(目玉無しの場合)
[動画]
①3~4%アルギン酸ナトリウム溶液の調製をします
②①で調製した溶液に食用色素を加えます。(赤を使えば通常の色のイクラになりますが、色素の色を変えると・・)
③約10%程度の塩化カルシウム溶液を作ります。
④②の溶液を駒込ピペットで③の溶液にゆっくり垂らしてきます。これで人工イクラの完成です。
*試薬は薬局ですべて購入する事が出来るのと、溶液の濃度はあくまでも目安であるため、濃度が濃くなっても薄くなってもある程度までなら、人工イクラを作ることが出来ます。
[イラスト]
食品化学実験版
①以下の3種類の液を調製します。
A液 1 wt% アルギン酸ナトリウム水溶液 50 mLを調製して、食紅等の食用色素を加えてよく混ぜます。
B液 サラダ油にβカロチン(目玉に色を付けるために使います)を混ぜます。
C液 1 wt% 塩化カルシウム水溶液 50 mL(乳酸カルシウムでも可)を調製します。
②下の図のように必要な器具などを用意します。
③コックを閉め、ロートにA液、注射器にB液を入れます。
④コックを開き、管の下から滴をC液の中に落とします。(目玉の無いイクラの完成:簡易版としてはここまで)
⑤次に注射器を軽く押して、二重ノズル構造の中で、C液の中に適が落ちると、目玉の入ったイクラの完成です。
私もこの方法で実験をしましたが、この方法は、サラダ油とアルギン酸ナトリウムをタイミングよく結びつかせ、塩化カルシウム溶液につけた時に、目玉とアルギン酸ナトリウム(ゾル)が一緒にアルギン酸カルシウムの膜で覆われている状態にするのが目的です。
そのため、いかにタイミングを合わせて、サラダ油を打つかが重要な鍵を握ります。
[イラスト]
人工イクラの原理
人工イクラで使用されている材料である「アルギン酸」ですが、化学的性質として、ミネラルと結びつきやすい性質があり、その中でもカルシウムと結びつくと簡単に固まります。
通常、アルギン酸はアルギン酸ナトリウムの事を指して、水に非常に溶け易く粘性が強いのが大きな特徴です。
そのため、あらかじめオレンジ色に着色したアルギン酸ナトリウム溶液をカルシウム溶液に垂らす事で、表面張力によって丸い水滴の状態でカルシウムイオンと結びついて、表面にアルギン酸カルシウムの膜を作ります。
つまり、アルギン酸ナトリウムの表面にアルギン酸カルシウムの膜がコーティングされる形になります。
食品化学実験版のように、途中でサラダ油を注入する事でイクラの目玉の部分を作る事が出来るので、より本物のイクラに近づける事が出来ます。
天然イクラと人工イクラの見分け方
最後に天然イクラと人工イクラの見分け方についてご紹介します。
天然のイクラだとお湯に入れると白くなります。人工イクラだと白くなりません。
天然のイクラの表面はタンパク質で形成されており、人工イクラの表面はアルギン酸カルシウムで形成されているため、お湯をかけるとタンパク質の変性(高温になるとタンパク質の性質が変わる事)するので、天然のイクラは白くなります。
最後に
人工イクラは、家でも簡単に作る事が出来るので、是非やってみてください。
ただし、人工イクラは薬局で購入する事になるため、基本的に食用ではありません。そのため、食べる事が無いように気をつけましょう。
また、この実験のメカニズムを理解しておくと、より実験が楽しいかと思います。